医師
インタビュー
NRHA・NRHA会員の取り組み

データ分析が切り拓く医療の未来と医師の新たなキャリア NRHA理事 寺島秀夫先生インタビュー

寺島 秀夫 医師/NRHA理事/株式会社シーユーシー Chief Medical Doctor 秋田大学医学部卒業後、市中病院で外科医として15年間勤務。その後、筑波大学医学医療系・同大学院にて消化器外科学教授を務め、附属病院地域連携室長およびひたちなか社会連携教育研究センター部長を歴任。大学での研究・教育に携わる中で医学界の常識に疑問を抱き、基礎研究・臨床研究の両面から「次世代の医療をより良くしたい」という探究心を深める。その信念のもとCUCに参画し、NRHAでは政策提言領域をリードしている。

データ分析が切り拓く医療の未来と医師の新たなキャリア
NRHA理事 寺島秀夫先生インタビュー

「盤石な経営基盤がなければ、崇高な医療の理念も立ち行かない」。

そう語るのは、現在株式会社シーユーシー(以下:CUC)のCheif Medical Doctor(CMD)として、またNRHAの理事として、医療現場のデータ分析と政策提言を牽引する寺島秀夫先生です。筑波大学で病院経営や地域連携の最前線に立ち、国立大学病院の経営改革に取り組んだ経験を持つ寺島先生は、ある確信を持ってCUCへ参画しました。それは、「経営の安定」と「医療の質向上」の両輪が、次世代の医療を支える鍵になるという信念です。

今回は、臨床現場の「暗黙知」をデータという「形式知」に変え、国の政策提言に繋げている寺島先生の取り組みと、そこに広がる医師の新たなキャリアの可能性についてお話を伺いました。

データが照らし出す、在宅医療の新たな論点

寺島先生のアプローチは、現場の医師が抱く「なぜ?」「どうして?」という素朴な疑問を、徹底的なデータ収集と統計解析によって解明することです。その象徴的な事例の一つが、在宅医療分野における「ポリファーマシー(多剤併用)」の研究です 。

ポリファーマシーとは、多くの薬を服用することで副作用や薬物相互作用のリスクが高まる状態のことです。CUCの支援先である医療法人社団平郁会のデータを分析したこの研究は、2025年6月の日本医療政策学会で発表されました。

そこで明らかになったのは、データが浮かび上がらせた事実でした。当初、国や医療業界は「薬剤師が訪問診療に同行すれば、薬の整理が進み、減薬に繋がるはずだ」と期待していました。しかし、データを解析した結果、薬剤師の介入と処方薬数の減少には関連が認められなかったのです。薬剤師は服薬管理や飲みやすさの工夫においてプロフェッショナルですが、「処方を減らす」という意思決定には、医師自身の意識や診療スタイルがより強く影響していることが示唆されました。

「5〜6種類以上の投薬は有害事象発生のリスクがあるため、できるだけ避けるべき避ける」と慎重に判断する医師と、症状への対応を優先し薬剤が積み重なっていく医師。寺島先生のデータから、この両者の違いの傾向が見えると同時に、患者様との長期的な関係があるほど自然と薬が減っていく傾向も確認されました。

この研究成果は、「薬剤師の関与が重要である」という前提を踏まえつつも、それだけでは十分に減薬へ結びつかない可能性を示唆しています。減薬をめぐる取り組みを制度として考えるうえで、どのような要素が影響しているのかを問い直す視点を提示しました。

2025年6月の日本医療政策学会ではNRHAとして研究内容を発表しました
2025年6月の日本医療政策学会ではNRHAとして研究内容を発表しました

1万件のデータが可視化した「訪問看護」のリアルワールド

「現場の感覚」を裏付けるだけでなく、埋もれていた価値を社会に示すこともデータ分析の大きな役割です。

2023年9月、寺島先生は居宅訪問看護事業を行うソフィアメディ株式会社と連携し、1万件以上の訪問看護データを収集・分析しました。乳幼児から後期高齢者まで、日本の訪問看護が実際にどのようなケアを提供しているのかを可視化したこの「リアルワールドデータ」は、訪問看護の特徴を明らかにしました。

そこで可視化されたのは、乳幼児から後期高齢者まで、あらゆる年代に対して訪問看護を提供している「全世代型」の実態。また、小児希少疾患の受け皿としての極めて重要な機能でした。 データからは、日本国内に数十人しかいないような稀な難病の子供たちを、地域の訪問看護師たちが支えている姿が浮き彫りになりました。

教科書でもあまり目にすることのない疾患に対し、現場のスタッフが勉強を重ねながら、柔軟に対応しているのです。 「国家試験でしか見たことがないような希少疾患がリストアップされてくる。現場の看護師の応用力と学習能力の高さには、医師である私も驚かされました」と寺島先生は語ります。

この分析結果は、訪問看護の実態に即した診療報酬のあり方を示す目的で厚生労働省へも提出しています。

ソフィアメディが提供する訪問看護の様子
ソフィアメディが提供する訪問看護の様子

「生かされている」のではなく「生きている」。生存曲線が語る尊厳

株式会社シーユーシー・ホスピスが運営するホスピス型住宅「ReHOPE」における難病患者様のデータ分析からは、医療の質と生命の尊厳に関わる貴重な知見が得られました。

対象となったのは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経難病です。実は、これら難病の予後に関する公的なデータは、国内にほとんど存在しません。本来であれば長期的な支援が必要ですが、患者様が専門病院から在宅療養へ移行すると継続的な追跡が難しくなり、予後データが空白になってしまうという構造的な課題があるためです。

だからこそ、終末期ケアを担うReHOPEに蓄積されたケアのデータは極めて貴重です。寺島先生がReHOPEの主要5施設のデータを基に生存曲線(生存率の変化)を作成したところ、そこには「心身ともに質の高いケアが実践されていなければ説明がつかない」と感じさせるような、緩やかな曲線が描き出されました。

このデータが意味するもの。それは、単に医療によって「生かされている」のではなく、患者様が自らの意思で「生きている」ことの証左ではないかと寺島先生は考えます。

 「身体機能は失われても、『これだけは譲れない』というこだわりを持ち、スタッフがそれを尊重してケアを組み立てる。その自己肯定感が、生存期間の延伸にも繋がっているのではないか」。

「尊厳ある終末期ケア」という理念が、患者様の予後にどれほど大きな希望をもたらすのか。データ分析を通じて、その科学的な裏付けへの挑戦が始まっています。

「医療と経営の明確な役割分担」がもたらす、医師の新しいキャリア

こうした多岐にわたる研究が可能になっている背景には、NRHAの一員としてCUCグループが徹底する「医療と経営の役割分担」があります。

通常、開業医や医療法人の院長は、日々の診療に加え、人事労務、資金繰り、集患といった経営業務に忙殺されがちです。しかしCUCが経営支援を行っている医療機関では、経営のプロフェッショナルであるCUCが経営支援を行うため、医師は「医療」そのものに専念することができます。

「経営の安定はプロに任せて、医師は現場に専念することができ、現場で生まれた『なぜ?』という知的好奇心を追求することもできる。これこそが、ここで働く医師の最大のアドバンテージです」と寺島先生は力を込めます。

さらに、私たちには強力な研究サポートチームが存在します。電子カルテからのデータ抽出、表記揺れの激しいデータのクレンジング(整理・正規化)、RPA(ロボットによる業務自動化)を用いた効率的な収集システムなど、研究のハードルとなる作業を引き受けてくれるチームもあります。

例えば、訪問診療の患者様の緊急入院理由を分析した研究では、RPAを活用して入院理由を体系的にコード化し、心不全と誤嚥性肺炎の予後の違いなどを明確にしました。このデータは、地域の救急病院がどのような体制を整えるべきかという戦略策定にも役立っています。

好奇心を持つ医師たちへ

「医学は未完成な学問です。診療をしていれば、必ず分からないこと、不思議なことに出会います。その


『気づき』をそのままにせず、データで解明し、社会に還元していく。そんな活動を一緒にやりませんか」と寺島先生は語ります。

NRHAは現在、これらの研究成果を基に、診療報酬改定への提言やより良い医療制度の構築に向けた提言も積極的に行っています。臨床医として患者様と向き合いながら、研究者としてエビデンスを構築し、政策提言者として国の医療を変えていく。

そんな「臨床×研究×政策提言」というトリプルキャリアを描ける場所がここにあります。